
メタンフェタミンはノルアドレナリン・ドーパミンなどのモノアミン神経伝達を強める中枢神経刺激薬であり、使用により覚醒感、エネルギーの向上、多幸感、食欲低下、不眠などを引き起こす。
同時に不安や攻撃性、妄想・幻聴などの精神病様症状を引き起こす場合もあり、薬物の作用が切れると倦怠感、集中力・認知能力の低下、過眠などを引き起こす。
また長期使用においては心血管系障害や攻撃性、精神病、虫歯や歯周病、更には肝炎やHIVのリスクも増加する。
俗称としてシャブ、S、スピード、🧊などがあり、欧米圏ではCrystal Methとも呼ばれる。
日本における最もメジャーな娯楽用薬物の一つで、日本においてはアンフェタミンと共に覚醒剤取締法にて厳正に管理・規制されている。
薬理学的プロフィール
メタンフェタミンはセロトニン・ノルアドレナリン・ドーパミン放出薬(SNDRA)に分類される。
ここがコカインなどのセロトニン・ノルアドレナリン・ドーパミン再取り込み阻害薬(SNDRI)と大きく異なる点になる。
主作用はやはりドーパミンとノルアドレナリンの放出だが、一部セロトニンを介した作用機序も存在する。
メタンフェタミンはアンフェタミンよりも強力な中枢神経刺激作用を有する。これは窒素原子にメチル基が付与され、脂溶性が向上することによってより容易に脳血液関門(BBB)を通過するためだと考えられる。
1.神経細胞内への侵入
通常の神経伝達では神経細胞の終末からシナプス間隙へ放出されたドーパミンなどの神経伝達物質は役目を終えると再取り込みポンプ(トランスポーターとも言う)によって再び神経細胞内に回収され再利用に備えられる。
しかしメタンフェタミンはこのドーパミン再取り込みポンプの基質として神経細胞内に入り込んでしまう。
言い換えると脳はメタンフェタミンをノルアドレナリンやドーパミンと勘違いして神経細胞内への侵入を許してしまうということだ。
2.シナプス小胞への侵入・置換
神経細胞の終末には神経伝達物質の貯蔵庫であるシナプス小胞と呼ばれる袋が存在し、その袋に神経伝達物質を取り込むVMAT2と呼ばれる輸送体が存在する。
神経細胞内に侵入したメタンフェタミンはこのVMAT2の働きを乱し小胞内のドーパミンと置き換わることで、結果として小胞内のドーパミンが細胞質内に押し出されて細胞質内のドーパミン濃度が上昇することとなる。
3.再取り込みポンプの逆回転によるドーパミンの放出
前にも触れたように、再取り込みポンプはその名の通りシナプス間隙に放出されたモノアミンを神経終末に回収する役割だが、すなわち細胞質内にすでに高濃度になったドーパミンなどを放出するように逆回転させる。
これによってシナプス間隙でのドーパミン濃度が上昇し、シナプス後神経細胞に存在するドーパミン受容体などを刺激してその主作用を発現する。
危険性
急性中毒
急性中毒では主に交感神経系亢進に伴う各種症状がメインとなる。
- 興奮/妄想
- 高血圧/頻脈
- 高体温
これらの交感神経系の亢進に伴いより以下のようなより重篤で時に致死的な中毒に移行することもある。
- 心虚血・不整脈
- 脳卒中(致死的)
- 横紋筋融解症とそれに伴う急性腎不全
骨格筋が破壊されて血中に放出されるミオグロビンという物質が腎臓に詰まることによって致死的な腎不全に移行することもある - 急性メタンフェタミン誘発性精神病
普通の統合失調症よりも切迫した被害妄想が特徴的(後ろから警察が追ってきてる等)。
慢性中毒
慢性中毒においては心身ともに様々な弊害が生じる。
- 認知能力・注意力低下
- 攻撃性
- 統合失調症
- 躁鬱
- 歯がボロボロになる(メスマウス)
- C型肝炎やHIVリスク増加
- 失明
- (静脈注射の場合)静脈炎
メタンフェタミン依存症
回復は可能。 ただし多大な労力と時間がかかる。
身体依存は形成されないが、精神依存は極めて強く、強い渇望感が再使用に至る主なファクターである。
メタンフェタミンは脳のドーパミン神経系にダメージを与える。
依存症の回復プログラムである12ステップやナルコティクス・アノニマスなどの自助グループに通うことにより回復することは可能である。
メタンフェタミン史
1885年に永井長吉によって喘息の治療薬であった麻黄に覚醒作用のあるエフェドリンという物質が含まれていることを発見した。その後1893年に彼はエフェドリンからメタンフェタミンが合成した。
第二次世界大戦中、兵士の士気とエネルギー向上を狙うため日本、ドイツ、イギリス、アメリカの各国ではメタンフェタミンを軍隊に大量に供給するようになった。日本では敗戦後に軍の放出品となったヒロポン錠が大量に民間人に出回り戦後の混乱もあって爆発的に使用者が増加。1951年に覚せい剤取締法が制定されるが1954年のピークに検挙者はは55,664人、推定で200万人が覚せい剤の使用を経験するなど日本のトラウマともいうべき大流行であり、このことが今日までの薬物規制の強化につながったと考えられる。その後、オイルショックの社会混乱によって1984年に検挙者数24,372人、バブル崩壊後の経済低迷によって1997年に検挙者数19,937人と三度の覚醒剤の大流行を日本は経験した。
世界全体で見るとフェンタニルなどの合成オピオイドに次いでオーバードーズによる死者が増加している薬物である。これにはより簡単に手に入りやすいメタンフェタミン前駆体が利用されるようになったこと、ゴールデン・トライアングルを中心としたメタンフェタミンの大規模な生産施設や持ち運び可能なメタンフェタミン合成ラボなどが出現したことが原因とされている。
参考文献
- 薬物乱用は「ダメ。ゼッタイ。」
- 浅井 昌弘. 「覚醒剤」 改訂新版 世界大百科事典, 2007.
- Arkansas Department of Human Services. "Origins of Meth" 2014. https://humanservices.arkansas.gov/divisions-shared-services/shared-services/office-of-substance-abuse-and-mental-health/me-over-meth/origins-of-meth/. Retrived by 2026-06-15.

